5月のあとりえ
藤の花が咲き始めると、何処からともなく必ずやって来るクマンバチが
この春は一度も来ない。
昆虫嫌いの私が怖いもの見たさに、つい駆け寄りたくなる、まんまるで
モフモフの黄色のセーターのクマンバチ君。
ブンブン威張って飛び回るわりにどこか愛おしい。
世界中の幾千万の命が奪われて、自宅謹慎を言い渡された春は、
恐ろしくスローペースで去ろうとしている。
八重の桜も、こぶしもハナミズキも、澄み渡った空の下、心から愛でたひと時はあっただろうか、不安と祈りで春に取り残されようとしている。
クマンバチ君、早く、早くおいで。
藤の花香る内に、終わらぬ内に。